最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2536号 判決 1950年3月07日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人平岡欣治同畑林同平岡利男三名の弁護人佐藤菅人の上告趣意は末尾に添えた書面記載の通りである。
上告趣意第一点について。
檢察官が公訴を取消することができるのは、第一審の判決あるまでに限られていることは旧刑訴法二九二條によって明らかである。記録によると、所論の公訴取消は、控訴審たる原裁判所に本件が繋属中に、すなわち第一審判決のなされた後において申立てられたのであって法律上その効力がないのであるから、原裁判所はその取消申立を不適法と認めて公判の審理裁判を行ったのである。されば、原判決には所論のような違法はないから論旨は理由がない。
同第二点について。
旧刑訴法三六三條は、判決をもって免訴の言渡をなすべき場合の一つとして「確定判決ヲ経タルトキ」を揚げているが、刑法五條は「外国ニ於テ確定裁判ヲ受ケタル者ト雖モ同一行為ニ付キ更ニ処罰スルコトヲ妨ケス」と規定し、たゞかゝる場合に犯人がすでに外国において言渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは刑の執行を減軽又は免除すべきことゝしている。されば、これら両規定を対照すれば、旧刑訴法三六三條にいう確定判決は、我が国の裁判権による確定判決のみを指していることは極めて明らかである。それゆえ、所論のように、被告人畑林、平岡利男の両名が京都第一軍団軍事裁判所において刑の言渡を受けその裁判確定して刑の執行を終えたとしても、旧刑訴法三六三條により免訴の言渡をなすべき場合には当らない。また前記軍事裁判所の裁判が、假りに所論のように刑法五條にいう外国の確定裁判若しくはこれに準ずべきものであるとしても、同條の規定によれば「同一行為に付キ更ニ処罰スルコトヲ妨ケ」ないのであって、たゞ場合によりその宣告刑の執行を減軽又は免除されるに過ぎないのであるから、原裁判所が右被告人両名に対し有罪の言渡をしたことには何らの違法はない。そして所論のような事実は、旧刑訴法三六〇條二項にいう刑の「減免ノ原由タル事実上ノ主張」ではないから、原裁判所がこの点について判断を示さなかったのは当然であって、原判決には所論のような違法はない。
同第三点について。
記録によれば、被告人等三名は、昭和二四年四月二八日の控訴審たる原裁判所の公判期日に出頭せず、原裁判所が更に定めた同年六月一一日の公判期日にも出頭していない。そして、右六月一一日の公判期日については原審弁護人から変更願が出され、それには平岡(被告人平岡欣治と思われる)病気等のことが電報と共に述べられているが、これらの書類によっては被告人等三名が同期日に出頭しなかったことが正当の事由に基くものと認められない。されば原裁判所が、被告人等三名において正当の事由なくして右期日に出頭しないものと認めて旧刑訴法四〇四條により、その陳述を聽かないで判決したことは違法ではない。すなわち、原裁判所が「被告人出頭スルコトナクシテ審判」したのは「別段の規定アル場合」であるから、所論のように旧刑訴法四一〇條八号に当るものではない。それゆえ、論旨は理由がない。なお末尾の附記は上告趣意ではないというのであるから、これに対しては特に説明しない。
よって、旧刑訴法四四六條に從い、主文の通り判決する。
以上は当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
(裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)